研究内容

私達の研究室では、光を用いた物理学の探究を実践し、新たな光技術の開拓にも取り組んでいます。大きく分けて3つの方向性の研究を行っています。

  • 新たな技術の創成
  • 物質の制御
  • で探る量子効果



新たな技術の創成

産業応用・開発は言うまでもなく、基礎科学の発展にも常に新しい技術の開拓が必要です。私達の研究室でも、基礎的な物理に迫る研究を行うと同時に、新しい光技術の創成に取り組んでいます。ここでは、最近の進展について紹介します。


光を用いた半導体真球作製
図 作製したZn0真球単結晶の走査型電子顕微鏡像

図のような直径数ミクロンの真球形状をした単結晶を作製することに世界で初めて成功しました。単結晶はその原子配列を反映した形状、例えば直方体や六角柱などの形をとるのが普通で、光学顕微鏡で見ることのできるミクロンサイズで真球の形状をした単結晶を作ることができるのは大きな驚きです。

きれいな原子配列がもたらす高い性能と最も対称性の高い形状である球が示す特長を兼ね備えた真球単結晶には、従来材料を超える新たな機能が期待されます。例えば、ミクロンサイズの微小球は光を内部に閉じ込める性能が高く、非常に性能の高い光共振器や効率の良い超小型レーザーを実現できます。また、光科学に留まらず多方面への応用も考えられます。 この実験は超流動ヘリウムという極低温かつ粘性が無視できるほど小さい特殊な流体の中でレーザーアブレーションと呼ばれる高強度レーザーで物質表面を破壊・融解する方法で行われました。 (本内容は大阪大学ナノサイエンスデザイン教育研究センター市川 聡特任准教授および大阪府立大学飯田琢也准教授、石原 一教授との共同研究によるものです。)

※ 「世界初!ミクロンサイズの真球単結晶を作製」 2014年6月5日
※ 「まん丸結晶できた レーザーで偶然の産物 大阪大などのチーム」 2014年7月28日
[1] Proc. of SPIE, 8263 82630K1-7 (2012).
[2] Sci. Rep. 4, 5186 (2014)


テラヘルツ光学の開拓
図 テラヘルツ-赤外波の帯域の諸物性情報

私達の研究室では、テラヘルツ周波数帯(一般的に0.1-10 THz)における物質の性質とその電磁波技術について研究をしています(図)。テラヘルツ波は、可視光では不透明な紙、布、プラスチックなどを透過し生体に与える悪影響がX線に比べて小さいことから、空港などのセキュリティーチェックなどに応用されています。またこの周波数帯域には分子の回転スペクトル、巨大分子の振動モード、強誘電体等のソフトモード、超伝導ギャップ、半導体中の励起子の束縛エネルギーなど数々の協同的な励起モードが存在します。したがってこの周波数帯の応答を調べることで物性発現の起源に迫ることができます。

物性研究のツールとして特に、テラヘルツ光源の超広帯域化・高強度化・高効率化に取り組んでいます。最近では1 THzから150 THz(中赤外領域)にわたる周波数の光の波形をオシロスコープのように表示させる技術を開拓し、またパルスの波形や偏光を簡便な素子を用いて自在に制御する手法(※)を開発しています。

※「世界発!金属板だけで光の偏光を自在に制御 」 2013年12月26日
[1] J. Opt. Soc. Am. B, 30, 1627-1630 (2013).
[2] Optics Express 20, 6509 (2012).



物質の制御

光は物性を単に調べるための道具としても使われますが、注意深く設計された光は物質の運動状態や物性をコントロールする道具にもなります。ここでは実際に行っている物質制御の研究を紹介します。


光マニピュレーション
図 光によるナノ粒子選別のイメージ

普通の物体と同じように光も運動量を持っています。この運動量を光から何らかの物質へと移すことで、その物質の運動状態を自由にコントロールすることができます。特に私達の研究室では、量子ドット(ナノメートルサイズの半導体微粒子)を対象とした光マニピュレーションを行っています。

量子ドットは量子閉じ込め効果により、サイズや形状に依存して、複雑な離散的エネルギー準位構造を持ちます。私達は、光の共鳴的な吸収を通じた光マニピュレーションを行うことで、量子ドットのサイズ選別に成功しています。さらに精密な運動制御や、量子力学的性質の選別といった課題にも取り組んでいます。

[1] Phys. Stat. Sol. (c) 6, 217 (2009).
[2] Optics Lett. 40, (6) 906-909 (2015).


高強度ピコ秒電場パルスによる物質制御

一般的な凝縮系物質はMV/cmの内部電場を持っています。この強度に匹敵する電場を物質に印加すると物質中のポテンシャルは外部電場に支配され、全く新しい物性発現が期待できます。しかし一般に電子伝導やイオン・分子振動はピコ秒スケールの緩和時間を持っていることから、電場を印加し続けると熱が発生してしまいます。このことからピコ秒の時間スケールだけ強電場を印加することが非平衡な物質制御には必要です。



で探る量子効果

私達の研究室では光を道具に、物質中での量子的効果を探索・解明する研究を行っています。ここでは最近の研究から2つの例を紹介します。


素励起と光のインタープレイ
図 超高速・超高効率光学応答

ナノスケールの物質中では、励起子(電子と正孔の結合した粒子)の波動関数が閉じ込めらるため、エネルギー準位が離散化されるなど興味深い性質が見られることが知られています(量子閉じ込め効果、量子井戸)。私達の研究室では、高品質薄膜を独自に作製することで、この効果をより大きなスケール(サブ μmレベル)まで拡張することに成功しました。

このような系では、光の波と励起子の波動関数が完全に重なる状態が実現できるため、光と物質の相互作用を極限的に強めることができます。その結果、100 fs(1000兆分の1秒)オーダーの超高速・超高効率な光学応答(下図)を得ることに成功しました。

※ 「I-VII族半導体薄膜の超高品質化で光応答速度を3桁向上」 2009年12月10日
[1] Phys. Rev. Lett. 103, 257401 (2009).
[2] Phys. Rev. B, 86, 235449 (2012).



強相関物質の光物性

1986年の銅酸化物高温超伝導体の発見以来、高温超伝導を説明し、さらには室温の超伝導を実現するべく幾多の理論的・実験的研究がなされています。また、高温超伝導現象だけでなく様々な興味深い現象の多くが、強相関電子系と呼ばれる物質群において発見されています。

この強相関電子系においては、電荷・スピン・格子を含むいくつもの自由度が互いに影響を及ぼし合っているため、特徴的なエネルギースケールはmeVからeVまで広がっています。このような系の物性を調べる手段自体も幅広いエネルギースケールを備えている必要があります。光はまさに幅広いエネルギースケールをもつ強力な道具です。特に私達の研究室では超広帯域テラヘルツ光源を武器に、強相関電子系の物性探索に取り組んでいます。

[1] Appl. Phys. Lett. 105, 023502 (2014).
[2] テラヘルツテクノロジーフォーラム通信 Vol.13 No.1.